GarbageCompany

満つらざるとも屈せず

サバイバー6 あおいの日記

わたしの名前はあおい。14歳。乗っていた船が難破して、無人島に漂着してからもう2ヶ月になる。

普通の中学生であるわたしが、これだけの期間生き延びていることには、自分でも驚きだ。実際、わたし一人では無理だっただろう。同居人のお陰がいくばくかあることは、認めざるを得ない。

同居人の名前はだいち。一つ年上の15歳の男の子だ。彼も船の難破で、わたしとほぼ同時期にこの島に流れ着いたらしい。たった一人で流れ着き、途方に暮れていたわたしを見つけてくれた事には感謝しているが、その際にわたしの眼鏡を踏んで壊してくれたお陰で、現在わたしは周囲の物がほとんど見えない。

はじめの一月は生きる事に精一杯で、二人で手探りしながらなんとか生き延びた。その後は徐々に生活も安定し、今では家畜を飼えるほどに余裕が出来た。今日は、わたしの変わり映えしない一日を記してみたいと思う。


朝目が覚めると、隣に彼がいる。と言っても、寝床は別だ。寝床を用意してくれたのは彼なので、それなりに気を遣ってくれているのかもしれない。漂着した初日にこの洞穴を見つけてから、ここがわたしたちの家になっている。テーブルや椅子も彼が作ってくれたので、今はそれなりに快適と言えないこともない。

「今日は湖の方に行ってみるよ」と彼。もう10日も湖にばかり行っているが、そんなに大きな湖なのだろうか?ともかく、お弁当を持たせて送り出す。

彼が出掛けた後、顔を洗って薪を拾う。彼は出掛ける時に薪に火をつけてくれるのだが、帰ってきた時にそれが消えていると怒るのだ。しかも、いつ帰ってくるかも分からない。2時間で帰ってくることもあれば、丸2日家を空けることもある。その間、薪をくべるのはわたしの仕事だ。理不尽だとは思うが、無人島で生きていくためには、やはり彼の協力は不可欠だし、機嫌を損ねることは得策ではない。

海岸で貝を拾ってきて、適当に調理して食べる。彼がいない間は一人分でいいので、料理が楽だ。ついでに、明日の彼のお弁当を作っておく。最初の頃は気合を入れて作っていたのだが、一度生のニンジンをきざんだだけの物を「弁当」と言って渡したら特に不満も無いようだったので、以降は出来るだけ簡単に済ますようにしている。今日はジャガイモにしよう。気分がいいので塩くらいふってあげないでもない。

正午をまわり、やることが無くなった。テレビがあるわけでもないので、火を眺めながらぼんやりと過ごす。本当はわたしも彼に同行して手伝ってあげたいが、いかんせん1m先の物もハッキリと見えず、却って足手まといになってしまう。まぁ眼鏡を壊したのも彼なので、仕方ないとも言える。というかここだけの話、わたしはいまだに彼の顔がはっきりしない。

海岸線の向こうに日が沈む。しばらくして、彼が帰ってきた。今日は早いお戻りのようだ。

「ただいま。今日は特に何も見つからなかったよ」と悪びれも無く言う彼。もう10日も同じ事を言っている。「今日『も』だろ」と心の中で突っ込む。

「お腹がすいたよ。何か作ってくれる?」と言われたので、彼が持ち帰った食材を適当に切って焼いて塩をふって食べる。これも最初の頃は、持ち帰ってくれた食材を全て料理していたが、一度3日丸々家を空けられて餓死しかけたことがあり、以降は自分用に半分くらい確保するようにしている。

そういえば持ち帰った食材の中に、またキノコが入っていた。この島に生えているキノコは、眠り茸や激しい腹痛を起こす物など毒性の強い物が多く、最初の頃に二人して手酷い目にあっている。彼だってその事は覚えているはずだが…。食事に困っていた頃ならともかく、今リスクを犯してまで食べる必要は無いので毎回捨てているのだが、必ず毎回持ち帰ってくる。これは何か彼なりの意思表示なのだろうか。

食事が終わると、いよいよもってやる事が無い。彼も以降は洞穴の中をうろうろするのみなので、寝ることにする。明日は何か見つかるのだろうか?というか彼はちゃんと何かを探しているのだろうか?この島から出られる日が本当に来るのだろうか?

まぁいずれにしろ、自分の足での探索が不可能な以上、わたしは彼のご機嫌を伺い続けるしか無い。様々な疑問を飲み込み、また変わらぬ明日がやってくる。